医療福祉・教育文化分野の研究・論文

高齢者の心療内科的ケア -福祉・介護・予防-

概要

本論文は、高齢者福祉の視点から高齢者の心身相関の疾患に対する介護と予防のあり方を論じたものである。
心身相関の疾患とは、過度のストレスが発端となってさまざまな身体症状が現れる状態を指、心身症と言われる。心身症は、対症療法としては身体的な治療が必要だが、それだけでなく心理的な側面も含む生活全体に対する関わりも身体症状の解消に有効である。福祉の視点では、それが「生活モデル」と言われるものである。本稿では、「生活モデル」に関する説明を出発点に、過度のストレス状態にある老老介護の介護者の現状や、そうした状態にある介護者が心身症を予防するための方策として、地域ぐるみで予防に対する周知・実践に取り組む「地域づくり」の必要性を論じている。
高齢者の疾病や障害は、高齢者個人の生活と密接に結びついているので、生活全体のなかで疾病や障害の原因や状態の変動を理解し、対処していく必要がある。

地域支援ネットワークの構築 -地域包括支援センターの活動を含めて

概要

本論文は、介護予防の観点から高齢者に対する地域支援ネットワークの機能を位置づけるとともに、地域支援ネットワーク構築のための具体的方策を論じたものである。
新しい介護保険制度が平成18年4月より始まり、介護予防を重視する仕組みが確立されるなど、平成12年度の制度開始以来の大幅な改正となっている。高齢者が住み慣れた地域で安心して自立した生活を送るための仕組みづくりも主要な改正点の一つであり、そのために、新たに地域支援事業が制度化されるとともに、その推進主体として地域包括支援センターが新設された。地域支援事業を活用した高齢者に対する地域支援ネットワークの構築は、介護予防の観点からも重要な意義を持っているが、その具体的方策については、厚生労働省の介護予防に関する研究班のマニュアル等に明示されていない。
本論文では、高齢者の生きがいをつくることが介護予防時代における地域支援ネットワークの重要な役割であることを論じるとともに、その具体的な構築方法を論じている。

認知症予防の地域づくりの担い手を育成するための方策について -N区認知症予防事業の事例に見る地域づくり推進の秘訣-

概要

本報告は、行政が市民と協働してまちづくり・地域づくりを推進するための担い手育成の要件を、N区の事例をもとに議論したものである。
N区の取り組み事例は、従来の市民参画と異なり、行政の掲げたまちづくり・地域づくりの構想・方針に賛同した区民が、行政計画・行政事業の組み立て段階から行政と協力・連携している点で画期的である。このような市民参画の担い手育成の方策を事例分析することが、本報告の意義である。
本報告の知見の一部は、公表済みのM市事例の検討成果をふまえたものである。

認知症予防のための地域づくりの推進方策について

概要

本報告は、行政の構想するまちづくり・地域づくりに賛同した市民のなかから、行政との協働によるまちづくり・地域づくりを担う人材を育成するための要件を、M市の事例をもとに検討したものである。
都市問題においては、自助・共助・公助のまちづくり・地域づくりが喫緊の課題となっている。その背景には、たとえば地域福祉・地域保健の分野で介護保険制度の存続が将来の財源不足のため懸念されたり、子育てや見守りなどの役割を家族や地域社会が担えなくなってきてるなどの状況がある。
従来の研究は制度研究、社会資源を動員するための研究、ワークショップを効果的に運営するための技法研究などが中心であったが、具体のまちづくり・地域づくりを提案し、かつ、行政と適切に役割分担しながら実践する人材の育成と、協働の関係を継続・発展させていく方法の研究こそ求められている。
そこに、本報告の意義がある。